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GPT-4.1:開発者向け新時代の大規模言語モデル

はじめに

2025年4月14日、OpenAIは開発者向けに特化した新しい大規模言語モデル(LLM)群を発表しました。GPT-4.1GPT-4.1 miniGPT-4.1 nano の3つのモデルがAPI経由で利用可能になり、開発者のユースケース、特にコーディング、指示追従、関数呼び出しの領域で、既存のGPT-4oモデルを大幅に上回る性能を実現しています。

注目すべき特徴として、これら3モデル全てが最大100万トークンという広大なコンテキストウィンドウをサポートし、改善された長文脈理解能力によって、そのコンテキストをより効果的に活用できるようになりました。

このブログでは、GPT-4.1モデルファミリーの技術的特徴、性能改善、そして開発者がこれらのモデルをどのように活用できるかについて詳しく見ていきましょう。

GPT-4.1モデルファミリーの概要

OpenAIは異なるユースケースとリソース要件に対応するため、3つの異なるモデルを提供しています:

モデル名 特徴・用途 入出力 コンテキスト長 最大出力トークン数 知識カットオフ 価格(100万トークンあたり) 備考
GPT-4.1 最も高性能。複雑なタスク向け 入力:テキスト・画像
出力:テキスト
1,047,576トークン 32,768トークン 2024年5〜6月 入力:$2.00
出力:$8.00
GPT-4.1 mini 知能・速度・コストのバランスが良好
「小型モデルの性能における大きな飛躍」
一部ベンチマークでGPT-4oを超える(確認が必要)
入力:テキスト・画像
出力:テキスト
1,047,576トークン 32,768トークン 2024年5〜6月 入力:$0.40
出力:$1.60
レイテンシ約半分、コスト大幅削減
GPT-4.1 nano 最速・最安モデル
軽量タスクや応答性の高いエージェントに最適
入力:テキスト・画像
出力:テキスト
1,047,576トークン 32,768トークン 2024年5月31日 入力:$0.10
出力:$0.40
分類、補完、高頻度利用に最適

これらのモデルの特筆すべき点は、最も安価なnanoモデルを含む全モデルが100万トークンという広大なコンテキストウィンドウをサポートしていることです。これにより、従来プレミアム機能だった大規模コンテキスト処理が、より幅広いアプリケーションで利用可能になります。

開発者向けの強化されたコア能力

GPT-4.1ファミリーは、開発者のワークフローを直接支援するために、いくつかの重要な能力が大幅に強化されています。

高度なコーディング性能

実世界のソフトウェアエンジニアリングタスクを評価するSWE-Bench Verifiedにおいて、GPT-4.1は54.6%のスコアを達成し、GPT-4oの33.2%から大幅に向上しています。

特に注目すべき改善点:

  • コード差分(Diff)処理: Aiderの多言語差分ベンチマークにおいて、GPT-4.1はGPT-4oのスコアを2倍以上に改善しました(精度:GPT-4.1が53%、GPT-4oが18%)。
  • エラー削減: OpenAIの内部評価によると、コードに対する無関係な編集の発生率が、GPT-4oの9%からGPT-4.1では2%へと減少しました。
  • フロントエンド開発: 人間による評価では、GPT-4.1が生成したWebサイトがGPT-4o生成のものより80%のケースで好まれました。

改善された指示追従能力

複雑な指示の実行能力を測るScaleのMultiChallengeベンチマークにおいて、GPT-4.1は38.3%の精度を達成し、GPT-4oに対して10.5%の絶対改善を示しました。

GPT-4.1は、先行モデルよりも指示に忠実かつ文字通りに従うように訓練されています。これにより、プロンプトの調整が必要になる可能性はあるものの、明確な指示に対して非常に応答性が高く、制御しやすいモデルとなっています。指定されたフォーマットや制約への準拠性も向上しています。

強化された関数呼び出しとエージェント能力

開発者からのフィードバックでは、関数呼び出しが「はるかに信頼性が高くなった」ことや、提供されたスキーマにより良く従うようになったことが報告されています。初期のユーザーテストでは、ツール呼び出しの効率が30%向上したとの結果も出ています。

これらの改善点(指示追従、長文脈、ツール使用)は、GPT-4.1モデル群が「エージェント(ユーザーに代わって自律的にタスクを遂行するシステム)を強化する上で、かなり効果的」であることを示唆しています。「エージェント的ワークフロー」の質を向上させるという目標や、独立してタスクを達成するシステムの実現が明示されています。

100万トークンコンテキストウィンドウ

GPT-4.1ファミリーの最も注目すべき特徴の一つは、その広大なコンテキストウィンドウです。

GPT-4.1、mini、nanoの3モデルすべてが、1,047,576トークン(約100万トークン)のコンテキストウィンドウをサポートします。これは、GPT-4oの128,000トークンから大幅な拡張であり、GoogleのGemini 2.5 Proといった競合モデルと同等の水準に達しています。

OpenAIは、全コンテキスト長にわたって信頼性の高い注意(attention)を維持するよう特別に訓練したこと、そして「改善された長文脈理解能力」を強調しています。「干し草の中の針(needle-in-a-haystack)」テストにおいて、全コンテキスト長で良好な性能を示したと報告されており、MRCR(Multi-Needle Context Retrieval)やGraphwalks(長文脈でのマルチホップ推論)といったベンチマークでもGPT-4oを上回る性能を示したとされています。

長文脈向けのプロンプト戦略

OpenAIは、長文脈を効果的に活用するための推奨事項を提示しています:

  • 最適なパフォーマンスのためには、指示をコンテキストの最初と最後の両方に配置することが理想的です。一度だけ配置する場合は、コンテキストの前に置く方が後に置くよりも効果的です。
  • プロンプトを通じて、モデルが提供されたコンテキストのみに依存すべきか、自身の内部知識も活用すべきかを指示することを検討します。

実用的な応用

この広大なコンテキストウィンドウは、大規模なコードリポジトリの処理、長大な文書(例:「戦争と平和」全文)の分析、法的契約のレビュー、文献調査、規制遵守文書の作成、そして複雑なマルチターンのエージェントワークフローを単一のAPI呼び出し内で完結させることなどを可能にします。

API、価格設定、開発者統合

GPT-4.1ファミリーは、開発者が利用しやすいように、複数のチャネルと柔軟な価格設定、そして統合オプションを提供しています。

提供チャネル

モデルはOpenAI API、Microsoft Azure OpenAI Service / Azure AI Foundry、およびGitHub Modelsを通じて利用可能です。WindsurfやCursorといった特定の開発者ツールへの統合も報告されています。

価格詳細

100万トークンあたりの具体的な価格(入力/出力)は以下の通りです: - GPT-4.1: $2.00 / $8.00 - GPT-4.1 mini: $0.40 / $1.60 - GPT-4.1 nano: $0.10 / $0.40

GPT-4.1モデル群は、GPT-4oと比較して中央値のクエリでコストが低く抑えられており(GPT-4.1対4oで約26%低いとの報告あり)、GPT-4.5 Previewと比較すると大幅に安価です。特筆すべきは、長文脈機能の利用に追加コストがかからない点です。

割引と最適化

プロンプトキャッシュ割引が75%に引き上げられ、バッチAPIリクエストには50%の割引が適用されます。

ファインチューニング

GPT-4.1およびGPT-4.1 miniに対して、教師ありファインチューニング(SFT)が近日中に提供開始予定であることが発表されています。ファインチューニングされたモデルはAzure AI Foundryを通じて管理され、バージョニング、セキュリティ、スケーラビリティの完全な制御が可能になるとされています。

パフォーマンスベンチマーク

OpenAIは、GPT-4.1ファミリーの能力を示すために、いくつかのベンチマーク結果を公開しています。

主要ベンチマーク結果

コーディング:

  • SWE-Bench Verified: GPT-4.1は54.6%のスコアを達成(GPT-4oは33.2%)
  • Aider polyglot diff: GPT-4.1は53%の精度(GPT-4oの18%の2倍以上)

指示追従:

  • Scale MultiChallenge: GPT-4.1は38.3%の精度(GPT-4o比+10.5%)

一般知識/推論:

  • MMLU: GPT-4.1は90.2%、nanoは80.1%
  • GPQA: nanoは50.3%

長文脈:

  • MRCR, Graphwalks: GPT-4oを上回る性能
  • Video MME: GPT-4.1は72%

マルチモーダル:

  • MMMU: GPT-4.1は74.8%
  • MathVista: GPT-4.1は72.2%

比較とコンテキスト

OpenAIは、4.1ファミリーがGPT-4oおよび4o-miniを「全面的に(across the board)」上回り、特にコーディングと指示追従において「大きな進歩(major gains)」を遂げたと一貫して主張しています。具体例として、miniが4oを、nanoが4o-miniを上回るベンチマーク結果が挙げられています。

ただし、OpenAIの発表資料は、主に自社モデルファミリー内での比較に焦点を当てており、GoogleやAnthropicなどの競合他社のモデルとの直接比較は含まれていませんでした。

市場の反応と開発者のフィードバック

GPT-4.1ファミリーの発表は、AIコミュニティ内で様々な反応がありました。

開発者からのフィードバック

肯定的反応:

拡張されたコンテキストウィンドウ、改善されたコーディング能力、そしてより信頼性の高い関数呼び出しに対して、多くの開発者から前向きな意見が示されました。特に、差分生成の信頼性向上といった実践的な改善点が高く評価されています。

疑問点:

「4.1」という命名規則、特に「4.5」との関係性について、かなりの混乱が見られました。API限定での提供開始と、ChatGPTへの即時統合が見送られた点についても疑問の声が上がっています。また、一部からは、性能向上が競合他社と比較して本当に画期的なのか、あるいは特定の価格帯(特に4.1本体)が妥当なのか、といった懐疑的な見方も出ています。

市場での位置づけ

強み:

  • 開発者のニーズへの強い焦点
  • コーディング/指示追従能力の大幅な向上
  • 競争力のある100万トークンコンテキスト
  • 柔軟性を提供する階層型価格設定

課題:

  • 命名規則の混乱によるコミュニケーション上の課題
  • API限定のローンチによる広範なテストの制限
  • 競合トップモデルとの性能比較における独立した検証の不足

まとめ

OpenAIによるGPT-4.1ファミリーの発表は、同社のAIモデル開発における重要なマイルストーンであり、特に開発者コミュニティに焦点を当てた戦略的なアップデートと言えます。コーディングと指示追従能力の顕著な向上、そして全モデルにわたる100万トークンという広大なコンテキストウィンドウの導入は、技術的な進歩を明確に示しています。GPT-4.1、mini、nanoという階層は、性能、速度、コストの異なる要求に応える柔軟性を提供します。

開発者にとっての主なメリット/アドバンテージは:

  • 主要な開発タスクにおけるパフォーマンス向上
  • より高度なAIエージェントアプリケーション構築の可能性
  • より手頃な価格での長文脈処理能力へのアクセス
  • 先行モデルと比較して改善されたコスト効率

OpenAIの戦略的意図としては、開発者プラットフォームとしての地位強化、コンテキスト長のような主要機能における競合他社との積極的な競争、そしてより高性能なAIエージェント実現への布石が読み取れます。近日中に提供が予定されているファインチューニング機能は、企業ユースケースにおけるモデルの適合性をさらに高める重要な要素となるでしょう。

これらの新モデルは、AIアプリケーション開発に新たな可能性をもたらし、特にコーディングアシスタントやエージェントシステムの領域で、開発者の生産性を大きく向上させる潜在力を秘めています。

(c) Lions Data, LLC.