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Kubernetesクラスター内 マルチテナント実現方法(1)

はじめに

マルチテナントとは、単一のKubernetesクラスターを複数の異なるユーザーやグループ(テナント)が共有する環境のことを指します。 リソースの効率的な利用が可能になりますが、それぞれのテナントが独立したリソースやアクセス権限を持つことが求められます。

1. メリット

リソースの効率化:

  • クラスターのリソースを複数のテナントが共有することで、リソースの利用効率が向上します。
  • 必要なリソースを動的に割り当てることができるため、無駄が減ります。

コスト削減

  • 複数のクラスターを運用するよりも、単一のクラスターをユーザが共有する方がコストが低くなります。
  • 類似のインフラの重複を避けることができるため、運用コストも削減されます。(集中管理によって、運用やメンテナンスが容易になります)

迅速な環境提供

  • 新しいテナントを迅速に追加できるため、開発やテスト環境の提供が迅速に行えます。
  • 環境設定の標準化が進み、テナントごとに異なる設定を行う必要が減ります。

2. デメリット

セキュリティの懸念

  • 複数のテナントが同じクラスターを共有するため、適切な隔離とアクセス制御が求められます。
  • 不適切な設定や脆弱性により、他のテナントに影響を及ぼす可能性があります。

リソース競合

  • テナント間でリソースを共有するため、競合が発生する可能性があります。
  • リソースクォータを適切に設定しないと、特定のテナントが他のテナントのリソースを奪うことがあります。

複雑な運用

  • 各テナントごとに異なる要件や設定が求められる場合、運用が複雑化する可能性があります。
  • マルチテナント環境におけるトラブルシューティングは、シングルテナント環境に比べて難易度が高くなります。

パフォーマンスの問題

  • 複数のテナントが同時にリソースを使用するため、パフォーマンスの低下が発生する可能性があります。
  • リソースの適切な配分と監視が重要です。

Kubernetesクラスター内でマルチテナントを実現することで、リソースの効率化やコスト削減、管理の簡素化といったメリットが得られます。しかし、セキュリティの懸念やリソース競合、複雑な運用、パフォーマンスの問題など、デメリットも存在します。これらのメリットとデメリットを理解し、適切な設定と管理を行うことで、マルチテナント環境を成功させることができます。

Kubernetesクラスター内マルチテナント実現方法

マルチテナントを実現に重要な要素

Kubernetes クラスター内でマルチテナント環境を実現するためには、いくつかの重要な要素を考慮し、適切な設定を行う必要があります。 リソースの隔離、セキュリティポリシーの強化、アクセス制御の厳格化、リソース管理と監視、テナント管理 が含まれます。

(1) リソース隔離

リソースの隔離はマルチテナント環境の基本です。これにより、各テナントの作業が他のテナントに影響を与えることなく、安全かつ独立して行われることが保証されます。

  • 名前空間: Kubernetes の名前空間を使用して、テナントごとにリソースを論理的に分割します。
  • リソースクォータ: 各名前空間にリソースクォータを設定し、各テナントのリソース使用を制限します。
  • ネットワークポリシー: 名前空間やPod間の通信を制限するネットワークポリシーを設定し、テナント間の不正アクセスを防ぎます。

(2) アクセス制御

セキュリティとプライバシーを保つために、誰が何をできるのかを正確に制御する必要があります。

  • RBAC (Role-Based Access Control): Kubernetesの機能であるロールとロールバインディングを用いて、各名前空間内でのアクセス権を厳格に管理します。
  • サービスアカウント: 自動化されたタスク (CI/CDパイプライン等) のために、サービスアカウントを使用し、適切なアクセス権を付与します。

(3) セキュリティポリシーの適用

Kubernetes クラスター内でマルチテナント環境を安全に運用するためには、適切なセキュリティポリシーの策定と適用が不可欠です。これには複数のレイヤーでのセキュリティ措置が含まれ、クラスターの安全性を確保するための基盤となります。

  • Pod Security Admission(PSA): Kubernetes クラスター内でPodが実行できる条件を定義するリソースです。PSAを使用すると、クラスター管理者はPodが起動する際に満たすべきセキュリティ関連の条件を設定できます。
    • セキュリティポリシーの階層: PSA は、privileged、baseline、restricted の 3 つのレベルのセキュリティプロファイルを提供します。これらは、異なるセキュリティ要件に基づいて Pod の実行を制限します。
    • 名前空間ごとの設定: 各名前空間に対して異なるセキュリティレベルを設定できます。これにより、クラスター内の異なるアプリケーションが異なるセキュリティ要件に対応できます。
    • 互換性と移行: PSA は古いバージョンのK8sに含めれていた PodSecurityPolicy (PSP) の置き換えであり、設定が容易になっている。
  • Network Policies:
    • クラスター内のPod間の通信を制御するためのポリシーです。これを利用して、特定のPod群がどのPodと通信できるかを指定し、不要なアクセスをブロックできます。
    • 例えば、外部ネットワークからのアクセスを制限したり、特定のサービス間でのみ通信を許可したりすることができます。

(4) リソース管理と監視

a. Kubernetes クラスターでのリソース管理と監視:

クラスターの健全性を保ち、パフォーマンスを最適化し、問題を迅速に特定して対処するために非常に重要です。適切なリソース管理と監視を行うことで、システムの透明性が向上し、予期しないダウンタイムを防ぎ、リソースの過剰または不足を防ぐことができます。

  • リソース管理: Kubernetes では、Podやコンテナに対して CPU とメモリのリクエストとリミットを設定できます。これにより、各コンテナが使用するリソース量を制御し、リソースの過剰予約や不足を防ぎます。
    • リクエスト: Podが動作するために最低限必要なリソース量を指定します。スケジューラーはこの情報を使用して、Podを配置するノードを決定します。
    • リミット: Podが消費できるリソースの最大量を指定します。これにより、あるPodが他のPodのリソースを圧迫することがないように制限します。
  • 監視: クラスターの監視は、リソース使用状況、トラフィックパターン、システムのパフォーマンスなど、様々なメトリクスをリアルタイムで追跡することを含みます。

b. Kubernetes内でテナントのリソース管理と監視:

Kubernetes内でテナントのリソース管理と監視を行うためには、適切なツールと戦略が必要です。

  • リソース管理:
    • リソースクォータ: 各テナント(名前空間)に対してリソースクォータを設定し、CPU、メモリ、ストレージなどのリソース使用を制限します。これにより、一つのテナントがクラスターのリソースを過剰に消費することを防ぎます。
    • リミットレンジ: Podやコンテナレベルで最小および最大のリソース使用量を設定します。これにより、テナント内のアプリケーションが設定されたリソース範囲内でのみ動作することを保証します。
  • 監視:

    • 個々のテナントの監視を行うためには、クラスター全体にわたる監視から特定の名前空間(各テナントに付与するテナントIDに対応)やテナントに特化した監視戦略に焦点を当てる必要があります。以上により、テナントごとのリソース使用状況、パフォーマンスメトリクス、およびアラートを効率的に管理し、問題を迅速に特定して対処できます。
    • メトリクスの分離:
      • 各テナントの名前空間で動作するアプリケーションのメトリクスを分離して収集し、そのスコープ内のリソースのみを監視します。
      • カスタムダッシュボード: Grafanaなどの視覚化ツールを使用して、各テナントにカスタマイズされたダッシュボードを提供します。これにより、テナントごとにリソース使用状況、トラフィックパターン、エラー率などの重要な指標をリアルタイムで追跡できます。
      • アラート戦略: Prometheus AlertManagerを用いて、テナント固有のリソース使用やパフォーマンスのしきい値に基づいたアラートを設定します。
      • ログ管理: Fluentd+Kafka, Grafana Lokiを使用して、各テナントからのログを集約し、Grafanaで分析します。これにより、テナント固有の問題の診断と解決が容易になります。
  • 以上により、テナントの監視を効果的に行い、テナントごとに最適化された監視環境を提供することができます。テナントのニーズに応じた監視は、リソースの最適な利用とクラスターの安定性の保持に貢献します。

(5) リソース管理と監視 / 自動スケーリング

  • Kubernetes クラスター内でテナントを適切に管理しながら自動スケーリングを実現するためには、Horizontal Pod Autoscaler (HPA) と Vertical Pod Autoscaler (VPA) という二つの主要な自動スケーリング機能を活用します。(クラスター内のリソース使用状況に基づいて、適切なスケーリング決定を行うことができます)
  • テナントごとにこれらのスケーリングツールを適用することで、リソースの効率的な管理と最適化が可能になります。

機能

  • Horizontal Pod Autoscaler (HPA):
    • HPAは、指定されたメトリクス(通常はCPUやメモリ使用率)に基づいて、Podの数を自動的にスケールアップ または スケールダウンします。
    • アプリケーションの負荷に応じてリソースを動的に調整し、パフォーマンスとコストのバランスを最適化することができます。
    • 補足:
      • 理想のメトリクス値と現在のメトリクス値の比率に基づいて、Podの数を自動調整します。
      • 各Podの平均メトリクス値を計算し、許容範囲を超えた場合にスケール操作を行います。また、メトリクスの欠落やPodの状態も考慮し、スケーリングの安定性を確保します。複数のメトリクスに対応し、スケーリング動作をカスタマイズする機能も備えています。
      • スケーリングの制限: 負荷が減少した際にすぐにスケールダウンすると、突然の負荷の増加に対応できなくなる可能性があるため、スケールダウンは通常、スケールアウトより慎重に行われます。
      • 安定性の確保: 負荷の変動が大きい場合、短期間のメトリクスの変動に基づいてスケーリングを頻繁に行うとシステムが不安定になる可能性があるため、長期間にわたる平均値を使用することがあります。
  • Vertical Pod Autoscaler (VPA):
    • VPAは、Podが必要とするCPUやメモリリソースの量を自動的に調整します。
    • 各Podに割り当てるリソース量を最適化し、過剰または不足のリソース割り当てを防ぎます。
  • 自動スケーリングの効果: リソース効率の向上:リアルタイムのトラフィックや負荷に基づいてリソースを自動調整することで、無駄なリソース消費を削減し、コスト効率を向上させます。
  • パフォーマンスの最適化: リソースを必要に応じて調整することで、アプリケーションのパフォーマンスを最適化し、ユーザーエクスペリエンスを向上させます。
  • 運用の簡素化: 自動スケーリングにより、手動でのリソース管理の負担が軽減され、運用チームの作業負荷が減少します。